【関税法等】頻出論点マスターシリーズ(第6回:関税の確定・納付・徴収)

関税法等

ようこそ、「資格コンパス」へ。このシリーズでは、通関士試験の難関科目「関税法等」の頻出論点を、一つずつ丁寧に解き明かしています。

前回の第5回では、「輸入してはならない貨物」について、その全リストと罰則の階層構造を詳しく解説しました。

第5回の記事はこちら

さて、第6回のテーマは「関税の確定・納付・徴収」です。

これは、これまでに学んだ「課税物件」や「納税義務者」といった知識を総動員し、実際に関税額がどのように決まり(確定)、どのように支払われ(納付)、そして支払いに問題があった場合にどうなるのか(徴収)という、一連のお金の流れを理解する、税関行政の核心部分です。

この記事を読めば、通関士の日常業務に直結するこの重要なプロセスを、体系的にマスターすることができます。


関税額はどう決まる? – 「確定」の2つの方式と法的手続の違い

関税額が法的に定まるプロセスを「確定」といいます。これには、原則と例外の2つの方式があり、どちらが適用されるかによって、その後の手続きが決定的に異なります。

原則:申告納税方式

日本の関税制度の大原則です。納税義務者が自らの責任において関税額を計算し、税関に申告することで納税額が確定します。増大する貿易量に対応するため、納税者の自主的な法令遵守と、税関による事後調査を二つの柱として設計されています。

例外:賦課課税方式

特定のケースでは、例外的に税関が税額を決定します。納付すべき関税額が、税関長の処分(賦課決定)によってのみ確定する方式です。対象は以下の通りです。

  • 入国者の携帯品・別送品
  • 郵便物(課税価格20万円以下のものなど)
  • 特殊関税(相殺関税、不当廉売関税など)
  • 全ての附帯税(過少申告加算税など)

【重要】「無申告」の法的整理と救済手続の分岐点

申告がなかった場合に税関が税額を「決定」する処分がありますが、この「決定」で確定した本税は申告納税方式の枠内で処理されます。一方で、ペナルティである「無申告加算税」は賦課課税方式で確定します。

この違いは決定的です。

  • 申告納税方式で確定した本税については「更正の請求」が可能です。
  • 賦課課税方式で確定した加算税に不服がある場合、唯一の救済手段は「不服申立」という厳格な法的手続きに限られます。

関税はどう支払う? – 納期限と戦略的価値

納期限の原則

原則として、納期限は事実上「輸入許可の日まで」です。「特例申告」の場合は、特例申告書の提出期限(輸入許可の日の属する月の翌月末日)が納期限となります。

納期限の特例:包括納期限延長制度

この制度の法的な正式名称は「包括納期限延長制度」です。

  • 内容: 担保を提供し税関長の許可を受けた輸入者が、特定の月に輸入許可を受けた全ての関税の納期限を、最大3ヶ月間延長できる制度です。担保の提供は制度利用のための絶対的な法的要件です。
  • 財務戦略上の価値: 最大3ヶ月間の納税猶予は、実質的に政府から無利子の短期運転資金を調達するのに等しく、企業のキャッシュフローを劇的に改善します。
  • 物流戦略上の価値: 納付と輸入許可のタイミングが切り離されるため、銀行の営業時間外や休日でも、税関の審査完了後直ちに貨物を引き取ることが可能となり、サプライチェーンの最適化に繋がります。

支払いが不足・遅れたら? – 徴収と附帯税の精緻な体系

申告額の誤りや納付遅延には、各種の是正手続と共に、ペナルティとしての附帯税が課されます。

納税者による是正:修正申告と更正の請求

  • 修正申告: 申告額が少なすぎた場合に、納税者が自主的に訂正する手続きです。
  • 更正の請求: 申告額が多すぎた場合に、納税者が税関に減額(還付)を求める手続き。原則、貨物の輸入許可の日から5年で請求権が時効となります。

【最重要】附帯税の完全解説【2024年改正完全対応版】

附帯税は、納税者の自発的なコンプライアンスを促すための、巧みなインセンティブ(アメとムチ)が組み込まれた制度です。

附帯税の種類課される主なケース計算基礎標準税率軽減措置加重措置(2024年1月1日以後法定申告期限到来分から適用)
過少申告加算税税関による増額更正、または調査通知後の修正申告増差税額10%
(増差税額が当初申告税額等を超える部分は15%
0%(免除):税関の調査通知前に、自主的に修正申告した場合。なし
無申告加算税税関による決定、または期限後申告納付すべき税額15%(50万円まで)
20%(50万円超300万円以下)
30%(300万円超)
5%に軽減:税関の調査を予知せず、自主的に期限後申告した場合。+10%ポイント加算:過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合(税率が25%/30%/40%となる)。
重加算税事実の隠蔽または仮装という不正行為があった場合代替される加算税の基礎税額・過少申告の場合:35%
・無申告の場合:40%
なし+10%ポイント加算:過去5年以内に重加算税を課されたことがある場合(税率が過少申告で45%、無申告で50%となる)。
延滞税関税を法定納期限までに納付しなかった場合未納の本税額2段階の変動利率(日割り計算)
(2024年は年2.4% / 年8.7%)
なしなし

附帯税が示すコンプライアンス戦略

この体系が示す最も合理的な戦略は、税関の調査を待つのではなく、堅牢な内部監査体制を構築し、誤りを自発的に発見・修正申告することです。これにより、過少申告加算税というコストを完全に回避できます。


まとめ – 関税のライフサイクルを理解する

  • 確定: 原則は申告納税方式。賦課課税方式の対象は限定的で、適用されるとその後の是正手続きが不服申立に限られる。
  • 納付: 納期限の特例である包括納期限延長制度は、最大3ヶ月の猶予が得られる強力な財務・物流ツールである。
  • 徴収: 附帯税は、自主的な是正措置に大きなインセンティブ(過少申告加算税の免除)を与える制度設計になっており、2024年からの常習者に対する加重措置に注意が必要。

次回予告

このシリーズでは、今後も受験生がつまずきやすい論点を一つずつ丁寧に解説していきます。

次回は、関税法等の頻出論点マスターシリーズ第7回として、今回少し触れた「修正申告と更正の請求」について、その手続きの要件や期間などをさらに詳しく深掘りしていきます。

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