【関税法等】頻出論点マスターシリーズ(第7回:修正申告と更正の請求)

関税法等

ようこそ、「資格コンパス」へ。このシリーズでは、通関士試験の難関科目「関税法等」の頻出論点を、一つずつ丁寧に解き明かしています。

前回の第6回では、「関税の確定・納付・徴収」の全体像と、2024年改正を反映した附帯税の精緻な体系について解説しました。

第6回の記事はこちら

さて、第7回のテーマは、前回少し触れた「修正申告」「更正の請求」です。

これらは申告納税制度の根幹をなす手続きですが、その法的性質は根本的に異なります。

  • 修正申告: 納税者が自らの誤りを正し、納税義務を自主的に履行するための制度。
  • 更正の請求: 払いすぎた税金を取り戻すために、法律が納税者に与えた正当な権利を行使するための制度。

この「義務の履行」と「権利の行使」という二元性が、申告納税制度の効率性と納税者の権利保護という二つの要請を両立させる、法制度上の均衡装置(バランシング・メカニズム)として機能しているのです。


【義務の履行】修正申告 – 自主的なコンプライアンス

修正申告は、申告した納税額が少なかった場合に、納税者が自主的に増額訂正するための「申告」行為です。

提出期限

税関長による更正(税額を増額する行政処分)が行われるまで、いつでも提出可能です。ただし、税関長が更正を行える期間(除斥期間)は原則5年であるため、実務上、修正申告が可能な期間もこれに準じます。

【最重要】過少申告に対する附帯税の包括的整理

自主的な修正申告を促すため、附帯税の体系は、申告のタイミングや悪質性の度合いに応じて精巧に設計されています。

状況適用される税基本税率加重分の適用条件加重部分の実質税率
税関の調査通知前の自主的な修正申告過少申告加算税0%(不適用)適用なし適用なし
調査通知後、更正予知前の修正申告過少申告加算税5%増差税額が「当初申告税額」と「50万円」のいずれか多い額を超える部分10%
更正予知後の修正申告、または税関による更正過少申告加算税10%増差税額が「当初申告税額」と「50万円」のいずれか多い額を超える部分15%
事実の隠蔽・仮装による過少申告重加算税35%適用なし適用なし

回避不能なコスト:延滞税

ここで極めて重要なのは、たとえ過少申告加算税が0%となる自主的な修正申告であっても、延滞税の支払いは免除されないという点です。延滞税はペナルティではなく、国が本来受け取るべき税金の受領が遅れたことに対する利息であり、法定納期限の翌日から納付日までの期間に応じて必ず課されます。その利率は市中金利に連動して毎年見直され、例えば令和6年(2024年)においては、当初2ヶ月間は年2.4%、それ以降は年8.7%です。


【権利の行使】更正の請求 – 納税者の正当な権利

更正の請求は、申告した納税額が多かった場合に、納税者が税関長に対して減額(還付)を求める「請求」行為です。

5年という請求期間

この権利は、原則として貨物の輸入許可の日から5年以内に行使しなければなりません。この期間は、平成23年(2011年)の関税法改正で、それ以前の「1年」から大幅に延長され、納税者の権利が大きく拡充された経緯があります。

国からの利息:還付加算金

更正の請求が認められ、税金が還付される際には、国が過大に税金を徴収していた期間に対する利息として「還付加算金」が支払われます。これは、納税者が延滞税を支払う義務との公平性を保つための制度です。

【重要】請求が否認された場合の不服申立制度

更正の請求が税関によって「理由がない」として退けられた場合、納税者はその決定(行政処分)に対して不服を申し立てる法的権利があります。

  • 再調査の請求: 処分の通知を受けた日の翌日から3ヶ月以内に、元の処分を行った税関長に対して再考を求める申立て。事実誤認など、比較的明白な誤りの是正に適しています。
  • 審査請求: 同じく3ヶ月以内に、処分庁の上級行政庁である財務大臣に対して審査を求める申立て。法令解釈など、より高度で専門的な判断が争点となる場合に戦略的に選択されます。

【例外規定】後発的理由による更正の請求

5年の請求期間には、重要な例外規定があります。

  • 内容: 当初の申告時には予測できなかった事情(後発的理由)が後から発生し、税額が過大となった場合に、5年の期間経過後でも例外的に更正の請求が認められる制度です。
  • 「後発的理由」の例:
    • 申告の基礎となった事実に関する訴訟での判決確定
    • 取引の前提となっていた契約の解除・取消し
    • 課税の根拠となっていた行政庁の許可等の取消し
    • 租税条約に基づく二国間協議での合意
  • 期限: その後発的理由が生じた日の翌日から起算して2ヶ月以内という、非常に厳格な期限が定められています。

まとめ – 戦略的コンプライアンスのための知識

  • 修正申告(義務): 納税額が少なかった場合に増額する。調査通知前に自主的に行えば過少申告加算税は0%だが、延滞税は必ず発生する。意図的な不正には35%の重加算税が課される。
  • 更正の請求(権利): 納税額が多かった場合に減額を求める。期限は5年。認められれば利息(還付加算金)が付く。否認された場合は不服申立が可能。
  • 特例: 判決など後発的理由がある場合は、5年経過後でも、理由が生じた翌日から2ヶ月以内であれば更正の請求が可能。

この2つの手続きの精緻な違いを理解し、特に附帯税の体系を把握することが、通関実務におけるリスク管理の第一歩となります。


次回予告

このシリーズでは、今後も受験生がつまずきやすい論点を一つずつ丁寧に解説していきます。

次回は、関税法等の頻出論点マスターシリーズ第8回として、「減税・免税・戻し税」について、特定の目的や条件を満たす場合に、関税が軽減されたり、免除されたり、還付されたりする各種の制度を、体系的に解説していきます。

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